化学反応式の書き方「基礎編」では、反応物と生成物を確認し、係数を調整するといった基本ルールを学びました。しかし、複雑な反応式では、どこから係数を合わせればよいのか迷ったり、何度試しても収拾がつかないこともあるのではないでしょうか?そこで今回は、特に係数を合わせるのが難しい反応式を解くコツと、未定係数法という数学的手法を解説します。
難しい化学反応式の係数合わせのコツ
化学反応式の係数が、どうしても合わせられない時があります。
そういう時の対処法を2つ紹介するよ。
方法その1.複雑な物質の係数を「1」と決めてしまう。
例題 次の反応を化学反応式で示せ。
⑴ 塩化アンモニウムNH4Clに水酸化カルシウムCa(OH)2を加えて加熱すると、塩化カルシウムCaCl2と水H2OとアンモニアNH3が生じる
とりあえず「?」で係数を書いてみましたが、暗算で係数を合わせるのは難しそうです。どこから始めればいいんですか?
まずは、塩化アンモニウムNH4Clのような複雑な化合物の係数を、先に「1」と決めてしまおう。これは、仮の値だよ。
すると、化学反応式の左辺に窒素原子Nは「1つ」と決まるから、右辺にもNは「1つ」となっているはずだ。
あ、そうなると、アンモニアNH3の係数が「1」となりますね!
そうだ。次に、塩素原子Clを見てみよう。先ほど塩化アンモニウムNH4Clの係数を「1」としているから、左辺に存在するClは「1つ」つだね。ということは?
右辺のClも「1つ」のはずですよね。でも、塩化カルシウムCaCl2の中にすでにClが「2つ」ありますよ。
その場合は、無理やりだが係数を「1/2」として無理やり帳尻を合わせておこう。
係数がだいぶ埋まってきたね。他にわかることはないかい?
あ!右辺の塩化カルシウムCaCl2の係数が「1/2」ですから、右辺のCaは合計「1/2」個ですね。
ということは、左辺のCaも「1/2」個ですから、水酸化カルシウムCa(OH)2の係数が「1/2」になるということですか?
分数が気持ち悪いけど、最後に直すからそれでいいよ。
最後はH2Oだ。係数はどうなるかな?
左辺の酸素原子Oが「1つ」分ありますから、右辺も「1つ」にしなければいけませんね。そうなるとH2Oの係数は「1」ですね。
よしよし。とりあえず係数が全て決まったね。でも、化学反応式の係数は「最も簡単な整数比」とするから、分数は整数に直そう。どうすればいいかな?
とりあえず全ての係数が入ったので、あとは「最も簡単な整数比」としましょう。
全ての係数を2倍したらどうですか?
完成!
素晴らしい。それでいいよ。
なるほど、簡単そうな物質を後回しにして、最後に調整するんですね。
じっと見つめて悩んでいるより、早く解けるかもしれませんね!
全ての反応式でうまくいくわけではないんだけど、ハマると早く解けるよ。もし上手くいかない時は、違う物質の係数を「1」にして、初めからやってみよう。
それでも上手くいかなかったら、最終手段だ。次の方法その2で紹介する「未定係数法」を使おう。
方法その2.未定係数法
例題 次の反応を化学反応式で示せ。
⑵ アンモニアNH3を白金Pt触媒を用いて酸素と反応させると、水と一酸化窒素NOが生じる。
ぐぬぬ。これも暗算では解けそうで解けない。
方法その1ならいけそうですが、それ以外の解き方もあるんですか?
確実に解ける方法があるよ。「未定係数法」を伝授しよう。
1. 係数を文字で表す
化学反応式を書き、未定の係数を文字(a,b,c…)と置きます。
※白金は触媒なので、反応式には入れないように気をつけましょう。
2. 原子ごとに方程式を作る
左右の原子数が等しくなるように、原子ごとに方程式を作ります。
3. 連立方程式を解く
連立方程式を解いて各係数の値を求めます。
4. 最小整数比にする
必要に応じて係数を最小整数比に変換します。今回は、すでに最も簡単な整数比ですので、このまま使用できます。
完成!
解けました!
ちょっと時間がかかるかもしれないけど、確実に解けるよ。
解法の使い分けをするのがいいかもしれませんね。
結局、合っていればなんでもいいんだ。好みの問題かもしれないね。
最後に1問だけ出題するから、好きな方法で解いてみよう。まとめの下に答えがあるよ。
例題 次の反応を化学反応式で示せ。
⑶ 銅Cuを希硝酸HNO3に加えると、硝酸銅(ll)Cu(NO3)2と水H2Oと一酸化窒素NOができる。
✔︎ 複雑な反応式では、複雑な物質の係数を「1」と決めてしまい、その後、調整をすると素早く解けることがある。
✔︎ 未定係数法では、係数を文字で置き、連立方程式を解くことで数学的に解くことができる。時間がかかるが全ての反応式で使うことができる。
答え: 3 Cu + 8 HNO3 → 3 Cu(NO3)2 + 4 H2O + 2 NO
方法その1の場合、Cu(NO3)2の係数を「1」として始めるのが良いでしょう。
酸性雨が銅像を溶かす化学反応のひとつだよ。